目次
全体を通して
今日はこの本です。
良い本でした。あくまで初学者向けとしてですが。
私は仕事で会計に携わっておりますが、外貨の取引は必須の要件ですね。近年はグルーバル化もあって、海外支店や在外子会社をもっている会社も多いのではないでしょうか。
新入社員や、新しく外貨の業務を行うけれど全く知識なくてピンチ!って人におすすめ。
内容としては、単に外貨取引の会計処理だけを説明しているのではなく、背景となるレートの決まる仕組みや、リスクヘッジ、輸出入取引の基礎などがうまく説明されていました。特にヘッジ会計については、別の本で勉強したことがあるのですが、なんとなくしか理解できていなかったので、この本を読んで「そういうことだったのか!」という発見もありました。
あと、私は趣味で投資もやっているので、そこには活かせそうなポイントはたくさんありました。
為替レートの基礎知識
直物レート
直物レートというのは、取引日から2営業日以内の決済のときに使用するレートです。
先物レートというのは、3営業日以降の決済で使用されるレートです。好き勝手に決められるわけではなく、現在レートに金利を加味したレートになります。詳しくは下で。
このあたりはなんとなく言葉は聞いたことがあったのですが、いざ説明するとなるとよくわかっていないような言葉なので、学ぶいい機会となりました。
まずは、直物レートについて。
TTS、TTB、TTMの説明がわかりやすかったので、紹介しておきます。
本の情報を元に図を作ってみました。
為替レートには、大きく分けて、銀行間の外貨取引で使用されるインターバンクレートと、我々一般peopleとの取引で使用する対顧客取引レートに分けられます。
それを元に、TTMが決まります。「Telegraphic Transfer Middle Rate」なので、ミドルのMです。TTMから、手数料分を足し引きした分が、TTSとTTBというわけです。SellingとBuyingなので、覚えやすいですね。
具体例を出すと、インターバンクレートとTTMが1$100円だとしましょう。
TTSは外貨を銀行が売って我々が買うときの話なので、「1$ください!」ってなったときを想像しましょう。手数料が1円かかるとすると、1$買うのに101円銀行に払う必要があります。なので、TTSは1$101円となります。
TTBはその逆です。「1$を円に替えてください!」という状況なので、手数料1円かかるとしたら、100円もらえるわけではなく、99円しか銀行からもらえません。なので、TTBは1$99円となります。
先物レート
上でも書きましたが、3営業日以降の決済で使用されるレートです。
計算はこんな感じ。
ポイントは、直物レートと、2つの通貨の金利差で決まるということです。
例えば、円とドルについて、こうだと仮定します。
- 直物レートが1$100円
- 円の金利が1%
- ドルの金利が10%
1年後の先物レートを求めるときは、1年後の円とドルを比較します。
この例だと、こうなります。
1年後の円:101円 = 1年後のドル:1.1$
となり1年後の先物レートは1$91円81銭(101円/1.1$)となります。
なぜ為替は動くのか?
これも考え方が説明されていてわかりやすかったです。
例えば、高くなる通貨の特徴はこんな感じです。これは投資にも活かせそう。
- 金利が高い(投資して利息儲けたい)
- 景気がいい(企業利益アップ、給与アップ、海外企業進出で円が必要になる)
- 輸出多い(支払はドルでもらって円にする)
- 地政学的に安定していて問題ない
あと、ちょっとびっくりしたのが、投機マネーについてです。
為替レートは大きく分けて実需マネー(私たちが旅行にいくときに両替するやつ)と投機マネー(FXで儲けようと日夜がんばるやつ)の2つに分類できますが、取引の8割~9割くらいは投機マネーらしいです。なので為替レートは投機マネーによってほぼ動かされているということになります。
起業活動や消費に大きく影響する為替レートが投機目的のマネーで動いていることに不安を感じるのは私だけでしょうか。
輸出入取引
外貨とは切っても切り離せない、輸出入取引についても、基本的なところから説明がありました。
まず、輸出入取引には、さまざまなリスクがつきものだって話から。
受渡、価格、品質、数量、決済、など、トラブルになりそうなポイントはいくつもあります。
そういったトラブルを未然に防ぐ仕組みとして、インコタームズがあります。取引を分類することで、どこで受け渡しとみなすか、もっというと、どこでリスクが輸出側から輸入側に移るのかという基準を示しています。
すべてのリスクについて取り決めがあるわけではなく、あくまで受渡条件と価格条件だけを定めたものとなっています。
引用元
会計的な話でいくと、輸出企業がいつ収益認識するの?といった話題だったり、輸入企業がいつ仕入計上するの?っていう話や、決算日をまたいだときは未着日として計上する、といった話も書いてありました。
このあたりは会計に携わる人なら基礎知識なのでだいじょうぶでした。ですが業務的なところとなるとまだ弱いので、精進します。
その他に、信用状(L/Cってやつ)とは?船荷証券とは?なども紹介されていました。知らない方はググってみるとよいです。
ヘッジ会計
全体像
ヘッジ会計ってなかなかとらえどころがないので、難しいです。実生活でこういう話ってあまり出てこないですしね。なんか小難しいイメージがあって、とっつきづらいです。
私も他の本で勉強したことあるんですが、いまいちピンとこないんですよね。
その点、この本の説明はかなりわかりやすく、初学者にはおすすめです。
まず、この全体図がいい感じでした。ちょっと自分で編集しましたがこれです。
仕訳の話とかそのへんの詳細は他のサイトに任せるとして、基礎的な考え方・用語だけ紹介しておきます。
ヘッジ対象とヘッジ手段
まず具体例を思い浮かべるとわかりやすいです。
100$の外貨建売掛金があったとして、その回収のときにもし円高になって100円/1$→90円/1$になったら、回収できる金額が10,000円→9,000円に減ってしまうというリスクがあります。
なので、レートを固定化して為替リスクを未然に防ごうというのが、外貨のリスクヘッジの考え方です。100円/1$で為替予約しておけば、9,000円の回収になってしまうことはありませんね。
ここで出てくるのが、ヘッジ対象とヘッジ手段です。
この例でいくと、こうなります。
ヘッジ対象:外貨建売掛金
ヘッジ手段:為替予約
独立処理とは?
ヘッジ手段とヘッジ対象会計処理を別々に行うことです。上の例だと、売掛金と為替予約の会計処理を別々に行うということです。
それぞれ決算日時点のレートで為替差損益の計算を行います。
これはあまりイメージしづらいですが、為替予約についても、必要です。仕訳的には、
為替予約/為替差損益
となります。ちなみに、為替予約締結時点では仕訳なしです。
この独立処理、実は不都合があります。
それは、為替予約だけ先にやっておいて、外貨建売掛金が計上される前に決算日を迎えてしまうパターンです。
このパターンの場合、為替予約の仕訳が計上されて当期の損益に影響が出ますが、売掛金はまだです。そもそもリスクヘッジというは、どちらかがプラスになったらどちらかがマイナスになるような2つのものを同時にもつというものなので、片方だけ計上されると本来の目的を達成していないことになります。その結果、投資家に不適切な情報提供をしてしまうということになってしまいます。
これを避けるために、繰延ヘッジの出番がきます。
繰延ヘッジとは?
ヘッジ手段だけが決算前に発生する場合には、決算での仕訳はこうなります。
為替予約/繰延ヘッジ損益(純資産)
これによって、純資産なので当期の損益には影響を与えないということになります。
翌期になって取引して外貨建売掛金が計上されたときに、繰延ヘッジ損益は振り替えられて、売上だったり為替差損益として計上されます。仕訳的にはこうなります。
繰延ヘッジ損益(純資産)/売上 or 為替差損益
振当処理とは?
上で書いた繰延ヘッジの処理はなかなか複雑なので、簡便的な方法として実務上多く使われているのが振当処理なのです。
ヘッジ対象と手段を1取引として扱ってしまおう!という考え方です。
為替予約をしたタイミングで予約レートで損益出してしまって、それを翌期以降で期間案分するというものです。
振当処理は国際的には珍しくて日本独自のものみたいですが、実務上多く使われているので、残っているようです。IFRSのコンバージェンスの動きなんかも近年盛んですので、なくなる可能性もありますね。
為替換算調整勘定
みなさん、為替差損益と為替換算調整勘定の違いをちゃんと説明できますでしょうか?
為替換算調整勘定の特徴はこれです。
- 在外子会社の換算で出てくる。
- 換算によって、「資産-負債=純資産」にならなくなる。
- 理由は、資産負債(決算日レート)、純資産(科目による)によって異なるので。
- その差を埋めるのが、為替換算調整勘定。
- 純資産なので、当期損益には影響なし。
- 実現するのは、子会社売却時。
その他
外貨建有価証券の換算なども勉強になりました。
保有目的によって処理が変わってきます。あと、償却原価法の話とかになるとややこしいです。興味ある方は調べてみてください。
まとめ
本のレビューとは思えないくらい長くなってしまいました。
そのくらいおもしろい本でしたので、おすすめです。気になる方はどうぞ。
ちなみに私は図書館で借りて節約しました。返したくないなぁ笑。
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