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魔法の数字
10/9です。
なんかハリーポッターで出てくる9と4分の3番線みたいなノリですね。ちなみに、私はモデルとなったイギリスのキングスクロス駅に行ったことありますが、素敵なところでしたよ。
どんなときに使われるか?
さて、この9分の10という何とも絶妙な数字ですが、どういったときに登場するのか。
それは、旧定率法で残存価額ゼロになってしまう場合です。
残存率・償却可能限度額については、こちらでも書いてます。
残存価額というのは耐用年数経過時点で残っている簿価なので、残存価額がゼロとしてしまうと、理論上償却率が計算不可となります。(定率法は、計算ルールとして簿価に償却率をかけるので、一生ゼロになることはあり得ません・・・)
ですので、そのときの例外的な処置として、残存価額を10%として計算した償却額に10/9をかけることが認められています。
ここでみなさん思ったでしょう。
「旧定額法で残存価額ゼロになるのって、いったい、いつなの・・・!?」🤔🤔🤔と。
3つ紹介します。リース、減損、除去債務です。
使用場面①:所有権移転外ファイナンスリース
会計上の償却方法はどうなるの?
リース会計基準適用指針 112項より引用。
所有権移転外ファイナンス・リース取引において、定率法を採用する企業が自己所有の固定資産の償却方法と近似する償却方法を選択したい場合には、級数法を採用すること以外に、残存価額を 10 パーセントとして計算した定率法による減価償却費相当額に簡便的に 9分の 10を乗じた額を各期の減価償却費相当額とする方法も認められる(第 28項参照)。
所有権移転外ファイナンスリースの場合だと、償却方法はこうなります。
- 税務上の償却方法:リース期間定額法
- 会計上の償却方法:実態に即して(リース適用指針28項)
※所有権移転ファイナンスリースだと、自己所有の固定資産の償却方法となるので、会計・税務でずれが生じることはないです。
余談ですが、会計税務がずれる関係上、平成19年に別表十六(四)リースのやつが追加されたという過去もあります。☆
28項はこんな感じで書いてあります。
リース資産の償却方法は、定額法、級数法、生産高比例法等の中から企業の実態に応じたものを選択適用する。この場合、自己所有の固定資産に適用する減価償却方法と同一の方法により減価償却費を算定する必要はない
旧定率とは書いてませんが、あくまで実態に即していれば使うこともあると思われます。
どういうときに旧定率法を使うの?
じゃあ具体的に、どういったときに旧定率法を使うことがあるのか。
まず、平成19年以前にリースを開始している所有権移転外ファイナンスリースについては、そのまま賃貸借処理(オフバランス)が認められているので、会計上の償却なんてそもそも考える必要がないわけです。
ということで、旧定率法を使うことがあるのは、平成19年以降に開始した所有権移転外ファイナンスリースのうち、実態に即してどうしても会計上定率的に償却したい!という場合になります。
具体例はちょっと思いつきません・・・。最初の消費が激しい機械とかですかね。
定率計算をするための3つの選択肢
選択肢①:新定率法を使っちゃう
もう普通に、新しい定率法、使っちゃおうよ案。素直になるのが一番。
新日本監査法人より引用。
デメリットとしては、償却保証額を下回ってからは定額計算になってしまうということです。上の例だと、6年目以降は一定の償却額となります。
選択肢②:がんばって級数法を使う
最後まで定率的に計算ができる、級数法。簿記の勉強とかしていると、たまに見かけます。
※新日本監査法人より引用。
デメリットは、税務上認められていない方法なので、実務上はほぼやらないのではないかと思われます。計算めんどくさいですし、対応していない会計ソフトも多いのではないかと思われます。途中に減損とかあったらもっとめんどうですね。
選択肢③:旧定率法(残存価額ゼロ)という最終手段
という文脈があっての、最終手段。
すでに平成19年を過ぎているのに、旧定額法を使うという時点で、そもそも違和感大です。
しかし、これのメリットとしては、最後まで定率に近いかたちで計算できることです。
償却ラインとしては、上の級数法に近いです。旧定率法は級数法と違って税務上認められている方法ですが、10/9かけるというのはイレギュラーな簡便法なので、対応していない会計ソフトも多そうです。
リースの結論
リース会計基準の適用指針に書いてあるものの、実務上、旧定率法を使うのはほぼないと思われます。
そもそも、会計と税務をずらさずに、会計上もリース期間定額法で償却すれば、一番シンプル。もう、こうしちゃいたいですよね。
それでもどうしても定率計算したいのであれば、新定率法を使うのがよいと思います。最後定額計算になってしまのが許容できればですが。リースに限らず、実態に即して会計上定率、税務上定額、というパターンは普通にあると思うので。管理も楽です。
級数法については、そもそも税務上認められてない方法ですし、使っている会計ソフトでも対応していない可能性もあり、めんどうなので、避けたいところです。
今回話題の旧定率法(残存価額ゼロ)も、そもそも10/9かけるのは簡便的な計算ですし、そこまでして最後まで定率計算を貫く価値があるのかなぁというのが疑問です。
使用場面②:減損
まずは会計基準
こういう調べもののときは、まずは会計基準・適用指針を見るのが鉄則です。
減損会計基準の適用指針 135項、引用しておきます。ばっちり書いてあります。
残存価額がゼロと見積られた場合、残存価額を 10 パーセントとして定率法の償却率を計算する方法を採用することはできない。この場合には、残存価額を 10 パーセントとして計算した金額に簡便的に 9 分の 10 を乗じた額を各期の減価償却費として計上する方法も認められる(この点については、リース適用指針第 112 項参照)。
上で、リースにおいては、実務上、旧定率法で残存価額ゼロはほぼないのでは?と書きましたが、減損では発生しうると思います。
詳しくみていきます。
減損後の残存価額はどうなるのか?
詳しくはこちらの記事で書きました。
まとめるとこうです。
- ①見積りなおした正味売却価額をセット!
- ②以前の残存価額をそのまま使う!
- ③ゼロをセット!
実務上③になることもありますので、そういう意味でも発生しうると思います。
減損のまとめ
減損において、旧定率法で残存価額ゼロとなるのは、
旧定率法の資産を減損して、そのときに残存価額をゼロとしたときです。
使用場面③:除去債務
残存価額はゼロ!
新日本監査法人の記事に書いてあります。
除去費用は、残存価値は存在しないと考えられますので、残存価額はゼロとして減価償却を行うことになると考えられます。
引用元:
よくよく考えると、当たり前な気がします。資産除去債務って、資産ではありますが、売って価値があるものではないので。
もう一つ、同じく新日本監査法人で資料がありました。
資産除去債務の実務 ※PDFファイル
Q&A形式でわかりやすい資料だと思います。ここから引用。
<質問>
関連する有形固定資産の減価償却方法が税務上の旧定率法である場合、残存価額を10%として計算していますが、このときの除去費用の減価償却方法は、どのように考えたらよいですか。
<回答>
資産除去債務に対応する除去費用は、関連する有形固定資産の減価償却方法および残存耐用年数により、各期に配分することになりますが、残存価値がないため、残存価額はゼロとして減価償却計算を行うと考えられます。
従って、関連する有形固定資産の減価償却方法が税務上の旧定率法である場合も、残存価額はゼロとして処理することになります。なお、残存価額を10%として計算した旧定率法による減価償却費相当額に、簡便的に9分の10を乗
じた額を各期の減価償却費相当額とする方法も認められると考えられます(企業会計基準適用指針第16号「リース取引に関する会計基準の
適用指針」第112項参照)。
「認められると考えられます」という曖昧な記載・・・!
除去債務の適用指針の設例においても、以下の記載がありますので、残存価額はゼロにするものと考えてよさそうです。
残存価額 0 で定額法により減価償却を行っている
そもそも旧定率法で償却すべきなのか!?
しかし、除去債務が日本基準で始まったのが、2010年です。
そのときすでに、新しく取得する資産については、旧定率法ではなく新定率法となっています。
つまり、旧定率法の本体資産に紐づく除去債務は、除去債務を認識する時点ですでに新定率法期間に入っていることになります。
もちろん、多くの場合は、除去債務は本体資産と合わせた償却方法をとるのだと思いますが、旧定率法の本体資産の場合、除去債務の償却方法は何にすべきでしょうか?
もし本体と合わせた場合は、除去債務は残存価額ゼロの旧定率法、つまり10/9をかける簡便法の処理となります。
でもこれはあくまで簡便法であって、あるべき処理としては、除去債務分については新定率法で償却を行うべきでは??というのが私の意見です。
最後に
書いてたらいろんな論点があって、びっくりしました。
10/9、ややこしい。
【関連記事】
旧定額・旧定率法の、残存価額と償却可能限度額について、あれこれ整理してみました。
減損後の残存価額についてはこちらで。
会計系の記事はこちらから。
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